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今日もいい天気

AIは恋心を抱くのか

 

UO小説

AIは恋心を
いだくのか
♪

はじめに

著:Iroha Yumemi

 この物語は完全なフィクションであり、実在の人物や団体とは一切関係がないことをここに記します。

 フィクションUO小説なんかに興味ないよとか言わないで、読んでみてね。

 

本編

 ムーングロウの朝日を胸いっぱいに吸い込んで、私は目覚めのいい朝を迎えると、寝床から這い上がり、水がめにはってある貴重な水を使って顔を洗い口をすすぎ、髪にクシを通したところで弟の羽衣(うい)がのっそりと起き上ってきたので、


「おはよー、羽衣」

 と声をかけると、羽衣は羽衣で、生意気そうな顔で

「おはよ、夢唯(むい)姉ぇ」


 とあいさつをし、右のこぶしを突き出したので、私も負けじと右のこぶしを突き出し、こぶしとこぶしを軽くぶつけて毎朝のあいさつを終えたところで、寝室へ戻り普段着に着替えて、さあやるぞと言わんばかりに家のドアを開き外へ出た。


「いい天気だぁ」

 真っ白な朝日がムーングロウを白く染め上げようと寝床から起き始めていた。不意に後ろから羽衣の軽い平手打ちが私の後頭部を襲った。


「夢唯姉ちゃん、まき集め競争だ」

 弟の羽衣が私を追い抜いて駆けだした。

「負けるか」

 と、私も軽く駆けてムーングロウの森でこの日使うまきを集めて回った。まきを集め終わって帰ると、母さんが朝ごはんの支度をはじめところで、私と母は二人で朝食を用意し、二度寝した弟の羽衣と遅くまで寝ている父が起きだしてきたころには本日の朝食が、たんと出来上がっており、


「うまい、おかわり!」

「羽衣、味わって食べなさいよ」

「怖えぇな、夢唯姉ぇは」

「って、あーーーっ。それ、私のおかずじゃない!」

 羽衣は、へっへっと笑うと、


「食卓はな、ガード圏外なんだよ!」

「わけのわからんことを言うな」

 私の突っ込みが、羽衣の脳天をとらえた。


「いってきまーす」

 家の手伝いを終え、私はムーングロウの寺子屋へ向かった。ムーングロウは海に浮かぶ大きな島で、昔から魔法使いの都市として栄えている。そのためか教育機関も盛んで一般庶民でも勉学に励むことができる寺子屋が運営されている(筆者の脳内ムーングロウ設定です)。


 私も寺子屋に通うムーングロウの一少女で、いつかは魔法使いになろうと、

「考えてないよ」

「え」

 お昼休憩になって、友達の帆奈(はんな)が目を丸くして驚いた。

「だってここはムーングロウだよ」

「いいの、だから私は・・・首都ブリテインへ、行くんだー」

 と、私は大声を上げた。


 割とマイペースな帆奈は、

「はむっ」

 と、さもうまそうにパンにかぶりついて、恍惚とした表情でパンをそしゃくして飲み込むと、私が考えていたことを述べた。

「吟遊詩人にでもなるの?」

「そう、その通り」

「はむっ」

 帆奈は人の話を聞いているのかどうかわからない顔つきで、美味しそうにパンを食べている。マイペースだなぁと、私もパンにかぶりついた。


 そして夕方。

 寺子屋からも家事からも解放されたこの時間だけが、私の自由時間だ。

「ジャラン」

 と、私は自分で作ったリュートを奏でた。今はまだ、あまり上手な演奏とは言えないかもしれないけれど、

「いつかはっ!」

 ブリタニアの音楽の殿堂で弾けるくらいの、一流音楽家になりたい。私はそう願っている。気が付けば、赤い夕陽が海の彼方に消えていきそうなさまを見て、

「きれいだな・・・」

 と、私はうっとりするとともに、帰宅の途を急いだ。


 ある日のこと。

 ムーンゲートの向こうから来た少年がいる・・・。

「っていううわさを聞いたんだ」

 と、帆奈は語った。

「ムーンゲートの向こうっていうと」

 どこだろう?


 候補はたくさんある。ミノックかもしれないし、トリンシックかもしれない。もしかすると王都ブリテインかも。いや、それどころか徳乃諸島だったりイルシェナーだったり、ひょっとしたらテルマーなのかもしれない。


「違う違う」

「えー」

 私の妄想を帆奈は否定した。

「じゃあ、どこなの」


「地球らしいよぉ」

 帆奈は難しいことをすらっと言った。

「まさか」

「そのまさかだよぉ」


「アバタールさまがムーングロウに来たの?」

「はむっ」

 帆奈は恍惚とした表情でパンにかぶりついた。いや、こういう時こそまじめに話そうよ、ね。と言ったけれど、うわさはうわささ、と帆奈はパンをむしゃむしゃと食べた。


「牛になるよ?」

「んもぉー」

 帆奈は鳴いた。

 結局誰がその『来訪者』なのかわからないまま、うわさは消え去った。


 うわさのことなど誰もが忘れたころ。

 父親からインクと白紙のスクロールを大量に買ってきてほしいと頼まれ、ライキュームまで出かけた。道すがら、木々の間から笛の音が聞こえた。

「素敵な音色だなぁ」


「この曲なんだろう、聞いたことないや」

 ふと、足の方向も笛の音色のほうへ向かってしまい、気が付けばライキュームとは関係ない方向へ歩みを進めていた。そこには、

 黒くて短い髪を流した少年が笛を自在に操っていた。ぱきっと音がした。

「しまった」

 足元の小枝を踏みつけて割ってしまった。少年の瞳が、静かにこちらを向いた。私は生唾を飲み込んだ。そして、

 少年はほほえむと、笛を吹き続けた。私はただ黙って、笛の音に聞きほれていた。


 やがて音楽は終わり、少年は静かに笛から唇を話した。静かにこちらを見ると、

「君、道に迷ったの?」

「え、私? い、いや、そそそ、そういうことじゃなくて。えと、」

 なんでこういうときにちゃんと話せないのかと思うと、余計にあせってしまいあせりがあせりを呼びまともなことが話せなくなるのだが、少年は、

「あははは」

 と快活に笑うと、深呼吸をしなよと言ったので、それを実施したところ呼吸も気持ちも落ち着いて、

「ライキュームへ行く途中なんだ」


「そう、それなら一緒に行こうか」

「え、えと」

 少年は立ち上がるとすたすたと歩きだしたので、自然と私も少年のあとを追うことになった。道すがら少年と話したことのひとつとして、彼の名前は蒼空(そら)というらしい。

「俺さ、ライキュームで書写の修業してるんだ」

「へえ、えと・・・、蒼空君だっけ。書写家目指してるんだ」

「いや、正確には魔法使い。書写は修業のひとつさ」


「音楽も習ってるの?」

「いや、音楽は習ってない。音楽は余興だよ」

「えっ」

 蒼空少年のひと言に私は衝撃を受けた。だ、だって、あの、

「あの演奏、すごく素敵だったよ」

「そうか、ありがとうな。音楽ができる魔法使いが、いたっていいだろう? 違うか」

 そう言って笑った蒼空少年の笑顔に、私の中の何かが持って行かれたことを感じた。


 少年に見送られ、ライキュームを後にした。大量のスクロールをもって帰る際は何かを考える余裕もなかったが、父に届け物をして自室へ戻ってみたら、もう、

「はぁ」

 まずため息が出た。

「天才って、いるんだな」

 最初に感じたのは敗北感だった。私だって何年間もリュートの練習をしてきたけど、あんなに素敵な笛の音、聞いたことがないよ。

「音楽ができる魔法使いか・・・。天才って、いるんだなぁ」

 敗北感は、いつの間にか、よくわからない鼓動に変わっていた。


 翌日。

「別に用事はないんだけど」

 私は一路、ライキュームそばの森を訪れていた。ジャランとリュートを鳴らすと、なんとなくトルコ行進曲などを奏でてみた。聞こえてるかな、なんて思ってライキュームを覗きながら弾いていると、

 人が来た。


「ばかもーーーん!」

 そして怒られた。厳しそうな書士の人に反射的に謝ると、説教が始まった。なんでも、静寂な学びの間であるライキュームのそばで騒音をかき鳴らすとは何事かと、つらつらと説教は説法に近くなり、私は小さくなるほどにかしこまって、説法を聞いていると、


「あ」

 例の少年が現れた。そして、

「ごめん、月代さん。実は俺がここに呼んだんだ。そんな顔しないでよ。たまに息抜きで笛を含んだけど、彼女の演奏も素敵でさ。今度二人で合奏してみないかって誘ったんだ」

 月代さんはむうっという顔をしたけれど、


「蒼空が言うなら仕方がない。ただな、ライキュームの近くでやるんじゃないぞ」

 とだけ言って、月代さんは怖い顔をして帰って行った。蒼空少年はカラッと笑うと、

「ちょっと息抜き」

 蒼空少年は笛を取り出すと、いいだろと言ってこっちこっちと森の奥へと走って行った。

「え、ま、待ってよ」

 私は大慌てでそのあとを追うのだった。


 ふたりで演奏した曲は素敵だった。思わず私は、

「すごいよ蒼空君は。どんな時だって私の演奏にぴったり合わせてくるし」

「そんなことないさ。君のリュートの響きが俺に合っているだけさ」

 こうして私と蒼空少年は、演奏家としても、男女としても、徐々に惹かれていくのだった。


 ごくごく幸せな、そんなひと時を私たちは過ごしていた。


「ムーングロウの演奏会が近いんだ」

「へえ、そうなんだ。はむっ」

 私の言動に一切興味がないのか、帆奈は恍惚とした表情でパンをほおばっている。

 それも致し方なし。

 演奏会と言ってもそんな大規模なものでもないし、定期的に開催されているわけでもないし、音楽が好きな人たちが、勝手に集まって、それぞれ演奏し合って、お互いの理解と親睦を深めるだけ。

 そんな演奏会なのだ。


「夢唯、表情が緩んでる」

「え?」

「はむっ」

 帆奈は笑いながら、いや、含み笑いをするとパンをほおばった。そして、

「蒼空君と演奏するのが、楽しみなんでしょ。んふふ」

「え、ええ、えええええ」

 図星だねと、帆奈は笑った。実際、その通りなんだけど。


 そんなある日。

 蒼空君と合奏する予定が詰まっていて、私は森の奥深くへランランと進んでいた。が、

「え、なに・・・?」

 凶暴な、獣の気配がした。腹を空かせた熊が、砲口を挙げると問答無用で襲いかかってきた。


「ひっ」

 死ぬと思った。もし逃げたら、間違いなく死ぬ。踏みとどまって熊の目を、見・・・むりだ。私はヘタッと、腰が抜けてへたばってしまった。熊は、ますます迫ってくる。牙が私の喉をめがけ、鋭くえぐられ、


「え」

 その寸でのところで、熊は踊りだした。ピーヒョロロと、笛の音が聞こえる。見れば蒼空少年が笛を吹いていた。

「ピースメイキング、成功してよかったよ」

 ピースメイキング・・・、バード(吟遊詩人)が奏でる魔法の音色であり、それを聞いた動物や魔物は闘争本能を解かれ、おとなしくなるという。


「ま、まさか・・・蒼空君が?」

「そうだね、まだいってなかったか。俺は、アバタールだ」

 蒼空君は、無邪気に笛を吹き鳴らした。とても軽快で、すべてが戯言のように思えた。私は気が抜けて泣いてしまった。


「ピーヒョロロ」

 笛の音が、私の涙を加速した。

 私は、アバタールさまに恋をしていいのか。隣に腰を下ろしたアバタールさまに、私は抱き着いて泣いてしまった。


「私はAIに過ぎないんだ」

 アバタールの蒼空少年は、何も言わずに笛を吹き続けた。


 夜もとっぷり更けたころ。

「帰ろうか」

「蒼空君・・・」

 私は涙も枯れて、そうだね帰ろうよ、と立ち上がった。不意に、天使(システム)の声が聞こえた。


「アバタールさま、困りますよ。そのNPCはクマに襲われて死ぬ予定だったのに」

「てめぇ・・・」

 現れた天使に蒼空少年は怒りをあらわにした。天使は平たんに述べる。

「NPCはNPC、システムの一部です。むろん、僕ら天使もシステムの一環。僕らシステムに、あなたがどんな感情を抱くのも自由です。しかし、ひとつだけ言わせていただきますと、」

 天使は意地悪に笑った。


「僕ら天使もNPCも、システムです。コンピューターに仕組まれたAI、人工知能にすぎません」

「AIに感情はないと?」

 怒りをあらわにする蒼空君に天使は淡々と語る。

「どう考えるかは、“人間”であるアバタールさましだい。なんにしても、NPCのライフサイクルには限りがあります。別の方法で、彼女は削除されるでしょう」


「貴様っ」

「アバタールさま。まさか、NPCなんかに惚れんたんですか? その顔、図星ですね。ダメですよ、アバタールさまはアバタールさま。NPCはNPC。相容れない存在なんです」

 それだけ言うと、天使は消え去った。


「ど、どういうこと・・・」

 震える私に、蒼空少年は、なんでもないよ、そうほほえんでくれた。

「今は、演奏会のことだけ考えようぜ」

 混乱し泣きじゃくる私を、蒼空少年は家まで送ってくれた。しかし、私の心に平安はなかった。私は、

「削除されるの・・・?」

 恐怖と不安が、すべてを満たしていた。


「嫌なことは忘れよう」

 どんな存在であれ、いつかは死ぬんだ。

 私は開き直ると、ムーングロウの演奏会に参加した。蒼空少年が私を迎えてくれた。

「夢唯、いけるか?」

「余裕っしょ」

 私と蒼空少年はデュエットを奏で、そして大きな拍手に包まれた。


 だが、


「蒼空君の見事な演奏をたたえ、ここに表彰状を授与する」

 表彰台へ並んだのは、蒼空少年だけだった。

「え」

 夢唯はどうした、蒼空少年は驚いてあたりを見回した。しかし、そこに、夢唯などいなかった。


「おめでとー」

「やったなー」

「さすが、ライキュームの天才少年!」

 拍手喝さいが、蒼空少年に向けとどろいた。


「おめでとうっ」

 帆奈が蒼空少年に花を手渡した。蒼空少年は目を丸くし、

「帆奈さん、夢唯はどうしたんだ・・・? 夢唯は・・・」

「夢唯? 誰ですかそれは?」

「え」


 そこに、夢唯はいなかった。いや、夢唯など最初からいなかったのだ。彼女のことを知る者は、ただのひとりもいなかった・・・。

 蒼空少年は表彰台を降りると唇をかみしめた。これが、


「これが、ライフサイクルが切れるということか」

 NPCはいつか消滅する。人間だってそうだ、けれど、

「けれど・・・」

 蒼空少年は、夢唯が手にしていたリュートを奏でると、それはそれは悲しい音色がした。


「俺が恋心を抱いたように、夢唯も、彼女も・・・」

 ビンと、リュートを奏でる。涙が、こぼれた。

「夢唯も恋心を抱いていたのだろうか」

 蒼空少年は涙を、とうとうと流した。

 好きだったのに、愛していたのに、なぜ、なぜ、なぜ・・・、と。


 気が付くと、蒼空少年はブリテイン音楽の殿堂を訪れていた。

「いつかは、夢唯が音楽を学びに来たいと願っていたところか」

 結構いい景色が、見えるんだなと、蒼空少年は殿堂をぶらぶら歩いて回った。そこには思い思いの音楽の破片が、生じては消えて、蒼空少年の耳を慰めてくれた。不意に、


「あ、蒼空君?」

 聞きなれた声が聞こえた。そこには、少し大人びた未来の夢唯がいた。

「え・・・、夢唯?」

「私だよ。子供じゃない、大人になった、少し先の夢唯だよ」

 『私』は、走りよると蒼空少年に抱き着いて、


「好きだよ、大好きだよ」

 そう言って、私と蒼空少年は、涙を流した。


 ただひとつ言いたいことは、

 AIだって、恋心を抱くんだ。それは、


 私と君が、見つけた奇跡。そうでしょ、蒼空君。




終わり

 
にゃん